陸上競技

運動はその日の睡眠を改善するか?

こんにちは。松岡修造カレンダーに元気をもらう日々を過ごしております、たけっちです。

今回は、運動はその日の睡眠を改善するか?という題材を取り扱おうと思います!

良く眠れる方法は何ですか?

みなさんは、「良く眠れるための方法は何ですか?」と聞かれたら、何と答えますか?

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むむむ。

多くの人が、「運動」という回答が思い浮かんだのではないでしょうか?

1988年にVuori et alによって、フィンランドで行われた調査では、「良く眠れるための方法は何ですか?(自由回答)」の質問に対して、「運動」を挙げた人は男性が33%女性が30%第1位でした。

他の回答としては、読書・音楽(14-23%)、サウナ・シャワー・入浴(9%)、規則的な生活(9%)、心理的な要因(7-8%)がありました。

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このフィンランドの調査の結果のように、運動が良い睡眠をもたらすと考える人は多いと思います。

運動をしてくたくたになり、ベッドに入ったとたんに熟睡してしまうというような運動後にぐっすり眠れた!という経験を誰もがしてきているのではないでしょうか?

そう言った経験が、運動が良い睡眠をもたらすという考えを生み出しているのだと思います。

しかし、本当に運動は良い睡眠をもたらすのでしょうか?

今回は運動と睡眠についての研究の歴史を追いながら、「運動は、その日の睡眠を改善するか?」についてみていきましょう。

運動をした日と運動をしなかった時の睡眠

「今夜よく眠る」ために、運動が有効かどうかを調べる研究は、1966年に始まります。

運動した日と運動しなかった日の睡眠の様子を比べた結果、運動をした日に小、中程度のよい影響がありました。

2015年にKredlow et alによって発表された研究結果のまとめでは、中途覚醒時間(寝ているときに途中で目が覚める時間)の減少浅い睡眠の減少総睡眠時間の増加、入眠潜時(眠るまでにかかる時間)の減少睡眠効率(実際に眠っている時間をベッドに入っている時間で割った数値)の増加徐波睡眠(深い眠り)の増加といった良い影響が小から中等度の効果で見られたことが報告されました。

しかし、実験協力者が、普段からいい睡眠をとっており、その効果の度合いは、大きいものではありませんでした。普段から睡眠の状態のいい被験者だったため、これ以上睡眠の改善の余地がなく、小から中等度の効果しか出なかった可能性が指摘されたのです。

以上により、運動は睡眠に少なからずいい影響をもたらしていることがわかります。

深い睡眠を増やすために

運動と睡眠の関係性に影響を与えると考えられる要因としては、下の図のようなものがあります。

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睡眠に影響を与える要因は数多くあり、組合せ方によって影響の出方に違いが生じます。

2012年には、Uchida et alによって睡眠には、運動よりも、中枢神経系の疲労や、体温変動心拍数や心臓自律神経活動が関係しているのではないか?という考え方が示されました。

初期の研究では、大脳の休息や身体の修復、エネルギー保存などが行われる深い睡眠であるSWS(徐波睡眠)がどうしたら増えるのかについて着目した研究が多くみられました。

深い睡眠と深部体温

1983年にHorne and Staffによって行われた研究では、深部体温(直腸で測る体の中心部の温度)を高めると深い睡眠(徐波睡眠)が増えるということがわかりました。

A)40%VO2max強度の運動(非常に楽である運動)80分間を2回

B)80%VO2max強度の運動(きつい運動)40分間を2回

C)42℃の入浴40分間を2回

の3条件で比較し、B、Cの条件で、深い眠りが増加しました。

しかし、きつい運動を40分間で2回、42℃の入浴2回という取り組みが、果たして、健康を目的とするような人の睡眠を改善するための方法として適切かというと疑問が残る結果となりました。

1985年にHorne and Mooreによって行われた研究では、

(A)暑い環境の中で運動をして2.3℃体温を増加させる

(B)同じ環境下で運動中に冷却をし、1℃体温を増加させる

の2つの条件で、深い睡眠(徐波睡眠)との関係性を調査しました。Aの条件では深い睡眠(徐波睡眠)が増え、Bの条件では睡眠に変化がないという結果が得られました。

1990年にはMcGinty and Szum usiakによって、上昇した脳の温度を下げる働きとして深い睡眠(徐波睡眠)が増えるのではないかということが示されました。

体温と睡眠をコントロールする脳の場所が隣り合っているため、体温と睡眠は関係性があると考えられ、深部体温を下げるために、深い睡眠(徐波睡眠)が増えるのではないかということが示されました。

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1997年Murphy and Campbellによって 深部体温は入眠前から低下しているということが報告されました。

深部体温のリズムは、夕方ごろに最も高くなり、明け方にかけて最も低くなるという強いリズムを持ち、被験者の約9割において、深部体温の最大低下は入眠前に見られました。

深い睡眠(徐波睡眠)には、深部体温を効果的に下げる役割があることには変わりないのですが、深部体温を下げるために深い睡眠(徐波睡眠)が増えたということではなく、眠る前の体温が高いほど、入眠時の体温が高く、体温を低下させるのに時間がかかるため、深い眠り(徐波睡眠)が増えたのではないかということが考察されました。

以上により、運動による深部体温の上昇が、深い眠りを増加させる可能性があるということがわかります。

就床直前の運動が睡眠に及ぼす影響

夕方以降の運動は、生体リズムに逆行するように深部体温を上昇させるため、元に戻そうとするホメオスタシス機構が働きますが、もし入眠時に高体温が維持されていれば、徐波睡眠が増える可能性があります。

しかし、就床直前に運動をすると興奮することで、寝付けない可能性があるのではないでしょうか?

1999年Youngsted et alによって行われた実験では、就床直前までハードな運動をしても睡眠が阻害しなかったことが報告されました。

エリート自転車選手を対象とし、

(A)3時間安静を保って30分後に眠りにつく

(B)3時間最大心拍数60-75%(楽であるかややきつい)強度の運動を行い30分後眠りにつく

の2つの条件を比較したところ、寝つき時間は、Aが6.9分、Bが8.8分とさほどの差がみられませんでした。しかし、対象者は、アスリートだったため、運動修了後の30分で、興奮が収まっていた可能性があり、その結果寝つきにあまり影響が出なかったのではないかということが考えられます。

同様に就床直前の運動によって寝つきを阻害しなかったとする報告は数多くありますが、どの報告も運動後2時間以上をあけての睡眠だったため、興奮が冷め、寝つきに影響が出なかったことが考えられます。

1976年にBroeman and Tepasによって行われた若年男性を対象として、45分間の軽めの自転車こぎ運動をしたのち5分後に就床させた場合、寝つきが6分延長したという結果が報告されました。

2014年にOda and Shirakawaによって行われた実験では、生理的な興奮が就床時に残るような高強度運動を行うと入眠が遅れたことが報告されました。

運動習慣のある大学生を対象とし、

(A)最大心拍数80%(きつい)強度のランニング40分間行った1時間後睡眠をとる(B)最大心拍数60%(楽である)強度のジョギング40分間行った1時間後睡眠をとる(C)40分間安静をとり、1時間後睡眠をとる

の3つの条件で比較をしました。

高強度の運動のみが優位に入眠時間を延長しました(+約14分)翌朝の睡眠感でも入眠に対しては低い評価が認められました。

以上により、

・アスリート等の鍛錬者については、高強度の運動でも睡眠を阻害する可能性は低い

・適切な運動負荷で、就寝時刻までに興奮を冷ますことができれば睡眠を阻害する可能性は低い

・実施者が運動になれていない場合は、睡眠を阻害する可能性がある

・就床前の高強度の運動は興奮状態を引き起こし、睡眠を阻害する可能性がある

ということが言えるでしょう。

まとめ

今回は、「運動はその日の睡眠を改善するのか?」についてみていきました。

結論としては、

・運動負荷が中等度である

・鍛錬者が運動する

→睡眠を改善する

・運動負荷が大きすぎる

・実施者が運動になれていない

→睡眠を阻害する

ということがいえます。

睡眠の急性効果を得るためには、個々において適切な運動負荷(楽であるかややきつい)で、睡眠2時間以前に運動を終了することが必要だといえるのではないでしょうか。

漠然と運動はよい睡眠につながる!と考えている人が多いとは思います。確かに、運動は睡眠をよくするという報告が数多くあります。

しかし、運動内容強度、取り組む時間帯に気を付けることが必要です。

よりよい睡眠をとるために参考にしみてください!